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第43回東京書作展(全国公募)審査会  会員リポート

更新日:2021年11月30日

主催 東京新聞   

後援 文化庁 東京都


2021年10月15日、掲題の書作展の最終審査が東京都足立区北千住のシアターセンジュにて行われました。第1次、第2次審査を通過した作品53点が、この日午前中の第3次審査を受け、その中の10点が午後の最終選考となる第4次審査に臨みました。

最終審査は公開審査で、審査員がそれぞれの作品を観客とカメラの前で口頭で評価します。率直な意見で討論し、大賞を含む上位三賞の最終決定を挙手で選出するという、この分野の審査会では他に例を見ない公明正大な書作展です。




東京書作展の主旨

文化は歴史の土台に築かれ、伝統を正しく受けつぎ、発展させて行くところに豊かな未来があります。

高い精神性を持ち、東洋文化の粋である書道が現代ではともすれば生きた国語生活から遊離し、いたずらに造形の為の造形に溺れる風潮なしとしません。しかし、時代は古典の背景のもとに練磨された本格的な書を求めようとしています。

真に実力があり、研鑽を怠らない全国の篤学の人のために、公募展「東京書作展」を開催いたします。

(東京書作展事務局からの開催案内より)



出品部門


第一部門:漢字、篆刻、刻字

第二部門:仮名

第三部門:現代漢字仮名交じり文

第四部門:小字数


それぞれ部門特別賞が選定されますが (本サイトでは掲載せず本展リポートの際に掲載予定)、最終審査では部門の隔たりはなく全ての作品が同じ基準で審査されます。

審査は一般の部と依嘱の部に分かれ、一般の部は常任運営委員の役員と審査会員の中から選出された審査委員により選出され、依嘱は常任運営委員より選出されます。








第3次審査発表

会場内では第3次審査に進出した53点の作品が順次披露され、同時に評価がアナウンスされます。この場で点数が発表されると第3次審査止まりとなり、第4次(最終)審査に進出と発表されると上位10作品に残り、その後の討論の場である最終選考の場に進むことができます。当日の観客は若干少なめで、淡々と穏やかに進められましたが、出品者にとっては何とも非情な選別です。しかし、これを乗り超えた先にさらなる飛躍が待っています。私も同様、誰しもが同じ経験をしてきました。ちなみに私は第41回の本書作展大賞を拝受しましたが、そこに至るまで何度もくじけては立ち上がりました。





最終審査(公開討論)


お昼の休憩を終えて審査会場に入ると、流石にこの世相を反映してか閑散とした中に僅かに緊張感があるだけでしたが、これは致し方ないことでしょう。熱気と緊張が混在する一大発表直前の雰囲気とまでは言えませんが、関係しているものとして悔しさと寂しさがあるものの、作品はどれも立派で気合いの入ったものばかりです。少しだけ感じるのは、例年よりも落ち着いた印象の作品が多いということです。これはまた考えようで、普通にゆったりと見られるというのもなかなか乙なものだと思いました。出品者はそれぞれここに至るまで、一体何枚書いて、何時間費やして、生活の中でどれほどの困難を乗越え、誇張ではなく、死ぬ思いで歯を食いしばって取り組んできたことでしょう。経験上痛いほどよくわかります。皆さんに「あっぱれ!」と言いたい気持ちです。最終選考に残った書家全員に大賞を受賞するだけの実力があると言っても過言ではありません。私個人としては、入室して最初に目に飛び込んだのが2番、3番、5番、6番、7番、9番ですが・・・ これって、えっ、半分も!ですね。





書の選定、こればっかりは人が決めるものでありますし、書以外のどの世界でもこのような審査会の結果は、普段の実力通りには行かないかないことが多いのも事実です。目の前でパフォーマンスをするわけでもありません。出品前に数多く書いて、その中から秀でたものを選択して提出することもできます。しかし、書は実力以上のものはできないとも言われます。スポーツのように格下が格上に勝利するなどという番狂わせのようなことはまず有り得ません。なぜなら、書き手その人が現れて、かつその人のその時の実力分しか出せないからです。「 書とは実に人間そのものの現れなのだから、ことさら妍を競うべきものではない。」と高村光太郎は言いますがそれはその通りです。とは言え、文筆家の目指す登竜門同様、新人の部類に属するこの場の出品者たちが、最高賞を目指し努力することによりさらなる高みに実力を上げる良い鍛錬の機会というのが公募展です。中でも、東京書作展が唯一公正な審査を行っていると言えるのは、最終選考が密室ではなく公開討論において意見を持ち出し、最終決定が衆人環視の中、審査員の挙手による投票数で決まるということです。この公平で、かつ作品のバリエーションに富んだ魅力ある当展覧会にさらなる多くの出品者が参加されることを強く願います。


審査員が順次入室してきていよいよ各賞選定の討論の始まりです。まずは委員長の内山玉延先生から初めの言葉がありました。概略を明記しますと、「 昨年に引き続き厳しい状況の中3日間に渡り大過なく審査会が開催されたこと、また現状を鑑みると本展についても予定通りに開催できそうだと思われるので安堵しています。出品数も幾分減りましたが、最後の段階でここに並んでいる作品(最終審査に残った10作品)は甲乙付け難いものばかりです。大変厳しい状況の中でも多くの作品を出品をしてくれた参加者の方々と、主催の東京新聞社と事務局の方々にお礼を申し上げたいと思います。」


ここから先は例年の通り、司会者の指名により最古参の中村山雨先生の話から始まります。

「 35年審査をしてきた。他の展覧会に比べると非常に良い展覧会である。それは古典をしっかり勉強したことが窺えるからである。正直どれを選ぶか非常に難しいが現代文(現代漢字かな交じり文)は東京書作展の顔で、この様な作品が数多く出品される展覧会は他にない。」と。その後、徐々に作品の評価に話が進みました。


本稿で選考における各審査員の先生方の意見・感想を全て掲載するには限界があるので、その評価、また会場で数名の先生と話をする機会もあり、私個人のインタビューも交えて各項目ごとに下記にまとめます。それらはあくまでも感想であり、決して各作品の価値そのものを定めるものではありません。



 
作品印象・選定基準について
・誰が見ても今年の最高であるという作品を選びたい
・作品を自分のものにしているかどうかが選定するポイントの一つ
・太細、潤渇、大小その他効果的な技法を駆使しても、いかに普通に見えるかがポイント
・誰が見ても格調高く、品の良さと力強さをあらわしているのが最高である
・世相を反映してこれはというのが見当たらない
・今年も多字数が多数


小字数作品について
・小字数が最終選考に残って非常に嬉しい
・一次審査から小字数作品を見てきて、作家が小字数を甘く見ている様に感じる
・単に文字を大きくする傾向があるが小字数であっても多字数並みのエネルギーを注いで書くべき
・一点一画に自分のエネルギーを注いだ作品を見たい
・審査員もこの場の観客も含めて小字数に対して理解を深めてほしい

漢字仮名交じりについて(6番)
・展示されている漢字仮名交じりの作品はどこの展覧会にも見られない
・6番の様な作品は珍しく、見たこともない人には効果がある
 (当展覧会の特徴にとどまらず文化継承にまで至る効果を意図したもの)
・展覧会作品として貴重で意義がある
・東京書作展の特徴を表していて、推して行く意義がある
・この種は見る人が読めるということが大前提
・「し」の文字が長すぎたり他に掠れて読みにくいところがある
・「し」は長すぎるから良いのだ、これがなかったらただ普通の作品だ
・ひらがな「し」は唯一長く伸ばせる文字で、うまくゆかない時は短くすること


刻字について(5番)
作品評価の項を参照してください。



※上記、「現代漢字仮名交じり作品」と「刻字」に比較的多くの時間が費やされたのであえて番号をふり紹介しました。
※上位三賞のコメントは、下記受賞作品画像の項目の下段に表記します。






2021年 最終審査進出作品 10作品




拡大画像 1〜5番


拡大画像6〜10番


大賞選考の際の最初の挙手で候補に上がった作品は、2番、3番、5番、6番、7番でした。

下記に受賞者名と作品、さらに選考中の審査員の意見を簡素化して掲載します。私個人の意見も掲載しようと思いましたが、11/10に東京新聞紙上に於いて本書作展の全成績発表と同時に上位受賞者と作品の写真掲載、並びに審査員の書評も掲載されるので今この時点では控えました。


大賞 内閣総理大臣賞 

東京都 冨岡翠雲氏


【 選考会評価 】


空間バランスが良い

絹本の効果により深みがある

近くで見ても遠くから俯瞰して見ても良い

落ち着いた品の良さがある

筆を動かし過ぎず程よく抑えながらテンポ良く溜めを作っている

三行目の縦画が潔い

文字数少ないが空間を上手く活かしている

品性あり優雅、柔軟性、絹本にこれだけ書けるのは実力のある証拠




準大賞 文部科学大臣賞

栃木県 大橋眉柳氏

【 選考会評価 】


最後の畳み込みが非常に上手くまとめられていて全体を締めている

墨量が多いが明るい

動き過ぎているが瞬発力があり目を引く

一行目から三行目中断まで大きいがそれほど揺らがず、以降は小さくなって行くが

そこで揺らぎを出している

書き切っている爽快感がある

立体的な表現に見えて、かなり上手いと感じる

長い線の書き方が上手い、リズム、太さ、長さ良し

勢い、迫力があり今後が楽しみな作家

文字の粗密がはっきりしていてパンチがある、躍動感がある




東京都知事賞

熊本県 小林滋樹氏

【 選考会評価 】

刻字の大作が出てきて最終選考に初めて残って喜ばしい

字に品がある

右下の遊印は位置と言葉が実にいい「楽此不疲」:此れを楽しんで疲れず

斬新で大賞にふさわしい

制作困難な要素が多い(基材準備、加工、揮毫、彫り、金箔貼り、ウイルス蔓延の影響・・・)

材料入手困難(自然災害、地元の水害、搬送規格外など)

作品制作に10ヶ月を要した

制作は多工程:基材シーズニング、揮毫、周辺の彫り加工、顔彩塗布、金箔貼り等





最終審査には残れなかったものの個人的に着目した8点









































































エピローグ

常任運営委員の原田歴鄭先生と


滅多にお会いできないので写真を撮影させていただきました。原田先生には、都知事賞の刻字作品を前にして制作の概要を教えていただきました。

多工程の作品で、材料調達(樹木のカツラは天然物が保護されているため容易には入手できない)、シーズニング、温湿度管理、揮毫後の彫加工、文字の周囲をノミで彫り込み、その後顔彩塗布、金箔貼りなど実に多くの労を要し、10ヶ月の期間をへて完成させたとのことです(前述の通り)。

私個人の見解として特に感心するのは、テクスチャー模様の赤茶色の顔彩が塗られた部分は面が立体的であるため光の反射を抑え、一方金箔は光って反射をするため文字の浮き立ちが効果的に映えています。微妙な角度の違いで金の色合い(反射状態)も変化しこの配慮はお見事と言えます。このセンスは凄い! 全てにおいて思いの込められた素晴らしい作品です。この作品は、討論の中で最も時間が費やされた様に思います。それだけ注目度がありました。


師としている本多周方先生と話ができたのですが写真は撮れずでした。先生は漢字と漢字かなまじり、どちらも超一級の惚れ惚れする書を書かれ、私が第一に尊敬する先生です。今回も数多くの出品者の指導をされました。


常任運営委員の中村山雨先生ともお話ができましてここで紹介します。中村山雨先生は色々話してくれましたが、最後に私に、「あなた、王鐸と米芾を勉強しなさい!それは、彼らは王羲之をよく勉強して、最後はそれを覆す様なところまでやり切ったからだ・・・」これにはただただお言葉拝受するばかりでした。



会場を去り、今回依嘱で特別賞(審査会員に推薦)を受賞された方々三人とお茶を飲みに行き、諸々話をする楽しいひと時を過ごしました。



本稿を最後まで読んでいただき感謝します。

皆さま、是非、本展にお越しください。端正で流麗、かつ含蓄のある作品を数多くご覧いただくことができます。日本をはじめ、日本をはじめ広く東洋文化に触れて、素晴らしいひと時を過ごすことができます。



菊地雪溪


43回東京書作展  会期:20211126日(金)〜12月2日(木)
           場所:東京都美術館1階 第1〜4展示室
             都美は上野動物園の隣
             便利になった上野駅公園口から大人の足で歩いて5