主催 東京書作展 / 東京新聞
後援 文 化 庁 / 東 京 都
2023年10月12日、掲題の書作展の最終審査が東京都足立区北千住のシアターセンジュにて行われました。第1次、第2次審査を通過した作品51点が、この日午前中の第3次審査を受け、その中の10点が午後の最終選考となる第4次審査に臨みました。
最終審査は公開審査で、審査員がそれぞれの作品を観客とカメラの前で口頭で評価します。率直な意見で討論し、大賞を含む上位三賞の最終決定を挙手で選出するという、この分野の審査会では他に例を見ない公明正大な書作展です。
東京書作展の主旨
文化は歴史の土台に築かれ、伝統を正しく受けつぎ、発展させて行くところに豊かな未来があります。
高い精神性を持ち、東洋文化の粋である書道が現代ではともすれば生きた国語生活から遊離し、いたずらに造形の為の造形に溺れる風潮なしとしません。しかし、時代は古典の背景のもとに練磨された本格的な書を求めようとしています。
真に実力があり、研鑽を怠らない全国の篤学の人のために、公募展「東京書作展」を開催いたします。
(東京書作展事務局からの開催案内より)
出品部門

第一部門:漢字、篆刻、刻字
第二部門:仮名
第三部門:現代漢字仮名交じり文
第四部門:小字数
それぞれ部門特別賞が選定されますが (本サイトでは掲載せず本展リポートの際に掲載予定)、最終審査では部門の隔たりはなく全ての作品が同じ基準で審査されます。
審査は一般の部と依嘱の部に分かれ、一般の部は常任運営委員の役員と審査会員の中から選出された審査委員により選出され、依嘱は常任運営委員より選出されます。
第3次審査発表
会場内では第3次審査に進出した51点の作品が順次披露され、同時に評価がアナウンスされます。この場で点数が発表されると第3次審査止まりとなり、第4次(最終)審査に進出と発表されると上位10作品に残り、その後の討論の場である最終選考の場に進むことができます。淡々と穏やかに進められましたが、出品者にとっては何とも非情な選別です。しかし、これを乗り超えた先にさらなる飛躍が待っています。私も同様、誰しもが同じ経験をしてきました。ちなみに私は第41回の本書作展大賞を拝受しましたが、そこに至るまで何度もくじけては立ち上がりました。下掲の作品は3次審査で筆者が好感を持った作品です。










最終審査(公開討論)
お昼の休憩を終えて審査会場に入ると、200人近い観客ががおり、この数年の傾向に比べて人数的に、また熱気と緊張が混在する雰囲気も上がり以前の状況に近付いてきた感がありました。作品はどれも立派で気合いの入ったものばかりです。例年よりもバラエティに富んだ印象の作品が最終審査に残ったと言えます。出品者はそれぞれここに至るまで、一体何枚書いて、何時間費やして、生活の中でどれほどの困難を乗越え、誇張ではなく、死ぬ思いで歯を食いしばって取り組んできたことでしょう。経験上痛いほどよくわかります。皆さんに「あっぱれ!」と言いたい気持ちです。最終選考に残った書家全員に大賞を受賞するだけの実力があると言っても過言ではありません。私個人としては、入室して最初に目に飛び込むものを期待していたのですが、どれも均等に見てしまうほど秀逸な作品ばかりが展示されていました。どれも甲乙付け難く、一品一品独自性を強く発するものばかりと言えます。審査することがどれほど難しいことでしょう。やはり東京書作展に相応しい多くの書体、書風、自由で個性豊かな創造性に溢れるものばかりで、この特徴は他の展覧会では見られない比類なき” 無双 ”の世界を呈しております。藝術だな!!と納得しました。
この場にいられることに幸福を感じると同時に、先人たちに感謝の気持ちが湧いてきます。

審査員が順次入場して来ていよいよ各賞選定の討論の始まりです。写真右は討論前の光景です。まずは委員長の内山玉延先生から初めの言葉がありました。要約しますと、「 多くの作品の出展、また本日の多くのギャラリーのご参加に感謝します。今年は小字数部門、漢字かな交じり部門に新しい風を感じさせる作品が多かったと思います(中略)。これから新しい作家の見い出しにさらに力を注ぎ、50回展に向けて続けて行かれるよう、皆さんも書友の方々に声をかけていただき、益々発展して行けるようご協力お願いします。」
ここから先は例年の通り、司会者の指名により最古参の中村山雨先生の話から始まります。
「 数十年審査をしてきた。展示された作品が他の展覧会の作品より凄いところは個性豊かなところであり、これだけ素晴らしい作品が揃うというのは非常に良い展覧会であるという証拠。さまざまな展覧会を見ていると作品はどれも同じ傾向があるが、東京書作展の作品はどれも空間処理が上手い。これは大溪洗耳先生の影響が残っているのだと感じる。東京書作展の様な展覧会は他にはない。」と。
その後、他の先生方による作品の評価に話が進みました。
本稿で選考における各審査員の先生方の意見・感想を全て掲載するには限界があるので、その評価、また会場で数名の先生と話をする機会もあり、私個人のインタビューも交えて各項目ごとに下記にまとめます。それらはあくまでも感想であり、決して各作品の価値そのものを定めるものではありません。
作品印象・選定基準について
・10点全て微妙に墨色が違っていて風格が良い
・余白が綺麗に仕上がっている作品を選びたい
・全作品、個性がぶつかり合って、東京書作展発足当初のことを懐かしく思う
・間の取り方が進化しているのがわかる
・筆は短峰・超長鋒、墨色は濃墨・淡墨ありで様々な作品が揃ったが、どれも甲乙付け難い
・これほど楽しく鑑賞できる書作展は他にない
・誰が見ても格調高く、品の良さと力強さをあらわしているのが最高の作品である
小字数作品について
・小字数が最終選考に残って非常に嬉しい
・一点一画に自分のエネルギーを注いだ作品を見たい
・審査員もこの場の観客も含めて小字数に対して理解を深めてほしい
漢字仮名交じりについて
・展示されている漢字仮名交じりの作品はどこの展覧会にも見られない
・展覧会作品として貴重で意義がある
・東京書作展の特徴を表していて、さらに推推して行く意義がある
※上位三賞のコメントは、下記受賞作品画像の項目の下段に表記します。
2023年 最終審査進出作品 10作品

大賞選考の際の最初の挙手で候補に上がった作品は、6番、7番でした。討論でもこの両名の作品以外に大賞に推す意見は聞かれませんでした。これほど寡占状態にも似た傾向は珍しいのではないかと思います。
下記に受賞者名と作品、さらに選考中の審査員の意見を要約して掲載します。私個人の意見も掲載しようと思いましたが、11/10に東京新聞紙上に於いて本書作展の全成績発表と同時に上位受賞者と作品の写真掲載、並びに審査員の書評も掲載されるので現時点では控えます。
大賞 内閣総理大臣賞
オーストラリア 高田月魁氏

【 選考会評価 】
静かで自然なデフォルメが程良く、品の良さが群を抜いている。
絹本に超長鋒でじっくり呼吸を送りながら筆にしたためて書かれている。
精神的に技術的に完成度の高い作品。
天地の空きが理想的。
繊細かつ品の良い作品。
余白が素晴らしく収筆も同様である。
これほど見事にまとめた作品は滅多に見ない。
1次審査から圧倒的に凄いという印象があった。
「 開 」の縦画を ”ため” を持ちつつ迷わず書いている。
出だしから落款まで空間処理が上手い。
常に走らず抑えすぎず品性を備えながら程良い感情を持っていて実に素晴らしい。
迷わずこの作品を対象に推す(多数の支持者がいた)。
間の取り方が良い。
そつなく文句の付けようがない。
絹の良さがこのままのイメージで本展で展示させたい。
主役の字と脇役の字が対角線に上手く散りばめられている。
これほど上品な作品は書家の人間性が出たものであろう。
かなり技量の高い作品。
三行目「 開 」と四行目「 衣 」の配置と墨の濃さの表現が秀逸。
現在これほど欠ける書家は日本にいないのではないか。
安心していつまで見ていても飽きない凄い作品。
準大賞 文部科学大臣賞
新潟県 忠地九華氏
【 選考会評価 】
現代風にモダンな篆書となっている。
篆書から隷書への過渡期に現れた小さなサイズで残っているものを作品化した。
2000年以上前の文字を現代に呼び込み、線を対称にせず微妙にずらしながら、
褐筆と潤墨を上手く織り交ぜて表現している。
斬新でパターンに嵌まっていない。
線の位置、空間の取り方は理解が深くなくては表現できない部類の書体で、そこを見事に表現した。
抑揚の変化の現れた良い作品
文字の粗密がはっきりしていてパンチがあり、躍動感がある。
21世紀に前漢時代の木簡を持ってきたらこんな感じになるのではないか、また、
大昔の文字の活かし方を示すとなるとこの様になるのではないかと思わせる。
全般的に線の方向性に色々と工夫がうかがえる。
「 亀 」の縦画・横画の線の方向や間隔、また「 過 」という文字は骨を蒔きながら通り過ぎるという意味を持つ字で、その意も汲んだかの様に之繞の踊るような線の書き方にはなんとも言えない妙味を感じる。
※作品は上記全体写真をご覧ください。
東京都知事賞
千葉県 宮尾玉粋氏
【 選考会評価 】
淡墨で非常に柔らかく細かいところまで神経が行き届いている。
細線に滲みが効いていて素晴らしい
羅門宣にうさぎの毛の筆を使用し墨継ぎを工夫して滲みを上手に表現した。
※作品は上記全体写真をご覧ください。
審査員に話題となった作品評価
【 1番 】
小字数として推したい。
幅が53cm(他は全て70cm)なので迫力に少し欠けたが墨色良く滲みも素晴らしい.。
宿墨が綺麗である。
叩くようなリズムが大胆で良い。
最大サイズで書いて欲しかった。
【 2番 】
線形の行き届いた作品。
渇線の深さに魅力を感じる。
呼吸深くしたためた迫力ある作品。
今後が楽しみな書家。
空間処理が見事。
太細の変化が素晴らしい。
終わりに
常任運営委員の中村山雨先生と審査前に少しお話ができました。私は今回、特別賞候補という賞をいただいたのですが、それを喜んでくださり、その後に「早く上がってこいよ!」と言っていただきなんとも嬉しく思いました。山雨先生は他にも色々話してくれましたが、最後に私に、「あなたね、王羲之を勉強しなさい。私は今でも勉強している・・・。蘭亭、十七帖、喪乱帖とかね。あなたもそうしなさい!!」( 一昨年前は王鐸、米芾でした )。お言葉拝受、「はい」と返答しました。
また、もう一人、柳澤魁秀先生とも審査後にお話しさせていただきました。10年ほど前に書作展で拝見したこのある先生の作品「 回 (Reincarnation) 」について感動したことを伝えました。思いを込めて気迫で書いたとのことです。僅かな時間の話の中で特に印象に残っているのは「 私は、中国でも韓国でも台湾でもない、日本書道を世界に発信したいのです 」と。誠に同感ですし素晴らしいことと思いました。
最後まで読んでいただき有難ういございます。
皆さま、是非、本展にお越しください。端正で流麗、かつ含蓄のある作品を数多くご覧いただくことができます。日本をはじめ広く東洋文化に触れられて素晴らしいひと時を過ごすことができると思います。
第45回東京書作展 会期:2023年11月18日(土)〜11月24日(金)
場所:東京都美術館1階 第1〜4展示室
都美は上野動物園の隣
便利になった上野駅公園口から大人の足で歩いて5分
休館日 11月20日(月)
2023年10月19日
菊地雪溪
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